そこで、太陽、風、海など、恵まれた自然を活かして地域を元気にできないか、そう考えたわけです。そのひとつが「環境立市」。八戸の恵まれた資源を活かして、新エネルギー導入などを推進しながら環境先進都市をめざす。そして、もうひとつが「海洋立市」。これは、八戸の海の持つ魅力・能力をフルに活かした街づくりを進めることによって、港周辺はもとより、八戸市全体をより魅力ある活気あふれるまちにすることを目指したプロジェクトです。「環境立市」 と「海洋立市」。この2つが、それぞれに、また融合することによって、八戸の経済・産業・雇用・街づくりなど様々な面を活性化し、地域のこれからを担う原動力になる、そう確信しております。
毛利:ひとことで言いますと「分散型電源、つまり複数の自然エネルギーを、ITを使ってひとまとめにし、一点で系統連系をする」というものです。これによって、商用系統から独立して運転可能な電力供給システムを、地域で持てることになります。小規模で、しかも地域のサイズに合わせたシステムが組める。ですから、地域レベルで新エネルギーを産業化させるためのビジネスモデルとして、また、これからの電力自由化時代の需要家サイドに立ったビジネスモデルとして普及する可能性を持ったシステムであるといえます。私は1999年にこのコンセプトを思いついたのですが、そもそもの発端は当時の「規制緩和」。安い電力でモノづくりができれば、日本の国際競争力は高まるはず。じゃあ、どうすれば安い電力が作れるか・・・と考えたのが、とっかかりでした。 Q:「マイクログリッド」を用いた実証研究が「八戸市 水の流れを電気で返すプロジェクト」ですね。 大河原:そうです。この実証研究は八戸市が(株)三菱総合研究所、三菱電機(株)と3者で取り組んでいるもので、自然条件により発電量が安定しない風力や太陽光を使いながら、比較的安定して発生する下水道汚泥のバイオガスによる発電と二次電池を組み合わせ、IT制御によって安定した品質の電気を供給するというものです。各発電設備は市内の4つの小中学校と下水道関連施設、市役所に設置し、これらを電力・通信のラインとなる延長約5kmの自営線でつなぎます。このように、自営線を設置し、ネットワーク内を独自に制御し、電源をすべて自然エネルギーでまかなうという内容では、たぶん世界初の実験だと思います。実証研究名は上水道から下水道に流れた水が、電気に姿を変えて、再度上水道関連施設に戻ることから、「水の流れを電気で返すプロジェクト」と名付けられました。 (下図参考)
大河原:そうですね。といっても、新エネルギーに関しては、この3年間、私たちなりに必死に取り組んできましたから。まず、市役所として環境やエネルギーを勉強しなくてはと考え、県の構想や動きとも連携をはかりながら「3Eプロジェクト」(Ecology, Energy, Economyがキーワード)というものを立ち上げて、毎月のように勉強会を開いてました。普通この種のプロジェクトは、扱うエネルギーや管轄などによって縦割りになりがちなんですが、そういう垣根をとっぱらった活動のできるチームにしました。実は毛利さんも我々の勉強会に講師としてたまたま来られた中の一人だったわけですが。また、県の頑張りによって、むつ小川原地域13市町村及び八戸市が、念願の「環境・エネルギー産業創造特区」として認定されたことで「マイクログリッド」の実証実験にふさわしいステージが整った、ということもありました。そうこうするうちに毛利さんの尽力もあって、東京や大阪のいろんな分野のトップクラスの人たちが続々と八戸を訪れてくれるようになりまして。まあ、一生懸命やれば、地域にも優れた人材や最前線の情報が集まって来るものなんだなあと感じました。
Q:で、毛利さんは、そのまま八戸に住み着かれてしまった?
毛利:それはですね、八戸へ来て、私自身が進化していることに気づいたからなんです。来た当初は、やはり私は技術屋ですから、新エネルギー導入にせよ、何かビジネスを考えるにせよ、全て技術視点で考えていたんです。ところがここに住んでみたら、どんどん地域視点に変わっていった。つまり「これは誰のための技術なのか」という、いわば技術開発の原点からいろんなことを発想できるようになった。そうすると「マイクログリッド」にしても、この技術にはコミュニティとのフュージョンが不可欠だ、という風に考えられるようになってくる。これが私にとって大きかったんですね。
産学官民が連携して、日本初の、市民による電力会社をつくる。 Q:プロジェクトの一環として構想されている「市民エネルギー会社」とはどういうものですか?
大河原:まず、風力や太陽光やバイオマスなど、いろいろな自然エネルギーの分散型電源をマイクログリッドでネットワーク化しますよね。この自然エネルギーを地域に供給するビジネスを、地域の企業や市民の参画による「会社」として行おうというものです。また、電気の供給だけではなく、ネットワークを通じた様々な生活関連サービスの提供も考えています。実現すれば日本初の「小売り用の地域市民電力会社」になります。それでこの検討のために「八戸市民エネルギー導入検討協議会」を設立しました。会員は地元企業を中心に、NPOや大手企業。参与として国、県、市。顧問として大学が参加しています。様々な企業がその専門分野に応じた提案を持ち寄って会議するわけですから、非常にレベルの高い検討が加えられています。この協議会は、プロジェクトにとっての素晴らしいバックボ−ンになってくれています。
Q:さらに「地域通貨」というシステムを導入する構想もおありだとか?
毛利:マイクログリッドでしかできない、新エネルギーをベースにした全く新しい地域通貨を考えたんです。将来、市民電力会社は自然エネルギーをたくさん作って売るようになります。従来のやり方だと、RPS法に則ってこれを電力会社に買ってもらうということになりますが、そうではなくて、地域でプールするんです。そして、これを原資とした地域通貨を発行しようじゃないかと。イメージとしては地域で流通する商品券ですね。単位は、八戸の「NOHE=ノヘ」。最大の特徴は「地域電力」という原資を持った兌換可能なローカルマネーであるということ。だから自然エネルギーを作れば作るほど原資が大きくなり、その分、流通量も増えていきます。何より、これを市民が使うことによって「自然エネルギーがまかなう環境先進都市・八戸」を常に意識してもらえる、誇りに思ってもらえる、これが大切だと思います。
毛利:新エネルギーを導入して地域で事業化するということは、実際簡単なことではありません。はっきり言って「大変難しい」。我々にしても、まだまだたくさんの克服すべきハードルを抱えています。でも「難しいから、できない」というのは、違うと思うのです。どこが難しいのかをきちんと分析して、難しさのレベルを把握する。次に、何があれば、どういうものを付加すれば、それが解決できるのかを考える。つまり知恵を出すということですね。そして、この知恵を出すしくみと、知恵を活かす環境が八戸市役所にはあった。ここが大切なんです。みなさん、なかなかいい知恵がないというが、本当はそれを活かす環境がないのではないか。技術者にしろコンサルタントにしろ、八戸に来た人はみんな、ここの人たちの判断のスピードと実行力にまずびっくりしますよ。だからこそ、知恵や情報を持った人が集まってくる。
大河原:そういってもらえると大変嬉しい。知恵を活かす体制づくり、知恵に応えるスピードとパワーを持った若い職員を育てることが、私の仕事ですから。いま、日本の地域政策は大きな曲がり角にきています。市街地の衰退、コミュニティの崩壊、人材の払底、そして公共事業にかわる財源の確保・・・これはどこの地方にも共通した課題でしょう。いきおい役所にも元気がない。でも、これではいけない。地域をひっぱっていくんだというファイトに燃えた役所にならなければいけない。しかしお金はない。だから「どうしたらみんなの得になるか」を常に考え「骨身を惜しまず」に動く。自分から動いて、みんなの動きをつくり出せ、と。当たり前ですが、これしかないですよ。そういう考えなものだから、プロジェクトの若い職員は大変だろうと思います。まあ、最近では私を戦略的に動かすことを覚えたものだから、逆にこき使われていますけどね。(笑)でも、刺激的ですよ、毎日が。
毛利:ですから、役所にこういう姿勢があると、産業界ものるんですよ。この効果が大きい。事実、市民電力会社というアイデアも商工会議所からの発案だったのですから。これがなければ、単なる新エネルギーの実証実験で終わっていたかもしれない。それが新しい地場産業を作るという大きな動きへと発展していったわけですから。
このプロジェクトの成功は、日本のエネルギー事情を大きく変えるかもしれない。 Q:では最後に、このプロジェクトの成功で、地域はどう変わるでしょうか?
大河原:まず八戸ということで言いますと、自然環境的な適性以外にも、工業都市・港町という土地柄が、今回の事業には向いていたと思います。常に人の出入りがあるため、外から来た人や情報を自然に受け入れることができる。新しい技術やモノづくりに対する感度が高い。私は津軽出身ですが、同じ青森でも全く違う。この事業に適したある種の地域ポテンシャルが八戸にはあった。しかし、私は、今回のプロジェクトを八戸1都市だけのものでは終わらせたくないと思っています。 「マイクログリッドシステム」や「市民電力会社」がここで実現できれば、恐らく日本のエネルギー問題、地域におけるエネルギーのあり方を大きく変えることができる、そう思っています。
毛利:まさにそこが大事なんです。今回のプロジェクトというのは、八戸以外の地域では難しかったかもしれない。しかし、ここでできるということが実証されれば、日本各地への応用が期待できる。もっと言えば、この技術は、インフラのない発展途上国のエネルギー供給システムとしても非常に適している。そういう大きな可能性を持った技術なんです。
大河原:ですから、我々としては、なんとしても 「マイクログリッドシステム」「市民電力会社」こういったものを成功させたい。できなければ日本がだめになる、そのくらいの意気込みで取り組んでいきますよ。