豪雨による森林資源の流出災害が、新エネルギー導入のきっかけに Q:住田町では新エネルギーである「木質バイオマス」に独自に取り組まれています。集成材工場では木質廃棄物を利用した熱エネルギー利用を行い、一方では木質ペレットを作られています。そして、ペレットを利用するストーブの開発にも協力され、公共施設への導入にも積極的です。いったい、どのようなきっかけで「木質バイオマス」という新エネルギーへの取り組みを決められたのでしょうか。 多田:最近は、遠くからも多くの来訪者の方が住田町にいらしてくださるが、やはり環境視点での新エネルギーとして興味を持ったという方々が多いようです。そうした視点からは、少々意外に感じるかもしれないが、直接のきっかけは平成11年の豪雨による災害でした。住田町のひとびとは、長い間山とともに暮らしてきましたが、知らないうちに山をきれいにしなくなっていた。例えば木を切る時には株を地面ぎりぎりまで切らず(地面が平らであれば、次の植林がスムーズに行えるとのこと)、使える部分だけを切るようになっていたし、昔は炭焼きで使っていた間伐時の残材なども、山に残したままになっていました。こうした残材は雨が降るたびに流されてすこしずつ集まり、長い間に山の中で小さなダム状に積み重なっていきます。それが平成11年の豪雨の時に一気に下まで流れ出し、林業・農業・建設業に大きな被害(高橋課長によれば林業1億円、農業2億円、建設業3億円と被害総額は6億円にのぼったという)をもたらしました。これではいけない、住田のもっとも大切な資源は先人の時代から森林ですから、原因がわかった時には誰もが「山をきれいにしていかなければいけない」と思った。それが直接のきっかけです。 Q:山をきれいにするために、残材をエネルギーに変えようということだったわけですね。 多田:そこから森林未利用材の活用という視点が生まれ「木質バイオマス」エネルギーに着目しました。いくつかの利用法のひとつとしてNEDOや岩手木質バイオマス研究会に協力をお願いし、「木質ペレット」を研究していただいたわけです。ただ、山をきれいにするためとはいえ、単に経済的リスクだけを負っても仕方がない。 しかし、森林は住田町にとってもっとも大切な資源であり、一方で住田町にはこれまでにもいろいろ成功した事業活動がある。その経験から「木質廃棄物処理ができる木質ペレットは、多少リスクがあっても事業化しよう」という決断ができたことが重要です。「屑を処分」するのではなく、「屑を宝に変える」発想です。 ご存知のように国内木材の価格が下がり、人件費が高騰する中で、住田地区の林業は国内有数の成功を収めています。それは付加価値が下がった「製材工場」だけでなく、「集成材工場」「プレカット工場」を新たに併設し、サプライチェーンの中で、より付加価値の高い製品分野まで住田地区で作るようにしたためです。こうしたものが役にたっています。 すでに平成12年から、この工場では端材などの木質廃棄物の一部をボイラーに利用し、乾燥工程は自前エネルギーで賄っていますが、今回の「木質ペレット」もこれらの製材事業の延長線上に連携することではじめて、リスクを軽減することができました。 Q:新エネルギー事業としての木質ペレット事業は、採算が取れているということですか。 多田:たとえばペレット製造ラインの設置に関しても、既存の工場内に置けたのでコスト的に有利でしたし、原材料としては隣接する工場の端材や木屑、プレナー屑を利用するため効率的です。輸送だけではなく、こうした加工工場ではすでに木材を乾燥させているため、ペレット製造工程での乾燥がいらなくなるからです。また当時から予測していましたが「木質廃棄物とはいえ、処分は有料」になりましたから、周辺の町の木質廃棄物をお引き受けして付加価値を加えて販売する、という可能性も視野に入れています。実際に、町内にある別の工場の廃棄物も原料として利用していますが、うまく動いています。
住田町にとって「環境」「社会」「経済」は一体のもの Q:お伺いしていると、いろいろな新しい試みをされていますが、まさに経営視点と環境視点が盛り込まれた、地域独自の知恵とノウハウによる「経営」だと感じます。なぜ、そのようなことができるのでしょうか。 多田:まず、住田町では「環境」と「社会」「経済」は一体である、ということがあります。森林をきれいにする、森林の価値を上げるということがそのまま地域のメリットになります。 そのうえで、先人たちが将来の町のありかた、経営視点といっても良いのですが、これを考えて、箱モノに走らず代々植林を続けてきました。13000ヘクタールの町有林のうち6500ヘクタールが昭和30年代から植林を続けた人工林です。当時100ヘクタールの森を切り開くと交付金に相当する収入が町に入るほどでした。続けて、先ほども申し上げたように、木材の価格が下がる中でさまざまな施策を考え、成功を収めてきました。このような継続した活動の結果、新しいことを始めるとしても議論のスタートをゼロから始めないでも良い。何が目的か、何が重要か、何を利用できるか、とても早く合意することができます。 また、周辺の町との広域連携や事業協同組合といった民間連携を行っていることが、もうひとつの理由だと思います。もちろん連携のためには、しっかりとした具体的な計画や、日ごろからのネットワークが重要ですが、それに豊富な町有林を含めて、これまでの住田町の実績が大きなポイントとなっています。 その結果、事業としてのスケールメリットやリスクの低減が生まれますから、今回のような「新エネルギーの事業化」といったことも実現しやすくなります。 Q:それでは、今後はどのようなことを計画されているか、お聞かせいただきたいのですが。 多田:木質ペレットに関しては、市場を広げることが大事ですし、それ以上に、興味を持ってくださっている住民の方が利用できるよう考えています。京都議定書に代表される地球温暖化への貢献策として、数少ない個人が参加可能な方策でもありますから、なんとか補助を行ってペレットストーブを利用しやすい環境を実現していきたい。すでに15台のペレットストーブや世田米保育園へのペレット床暖房は導入していますが、公共施設での利用もさらに促進していきます。 一方で、森林保全とさらなる付加価値化のために、FSC森林管理認証およびCoC森林認証を取得しようと考えています。すでに岩手大学の先生や高知県並びに高知県梼原町の協力を得ながら認証に必要な業務に着手しており、2004年のうちには取得できると考えています。 住田町の先人たちが未来を見越して様々な活動を行った結果、現在の森林・林業日本一を目指せる住田町があるように、現在のわれわれも木質バイオマスエネルギーへの取り組みや、森林保全・地球環境問題への寄与、自前エネルギーの確保、新たな事業の開発など、未来につながる価値の実現に努力していこうと思っています。
通常1億5千万円といわれるペレット製造ラインを8000万円で実現 。 Q:多田町長からいろいろなお話を伺いました。木質バイオマスエネルギーの利用について、現在どのようなことが進んでいるのか、現場からも教えていただけますか。 高橋:住田町には「さんりくランバー」という製材(ラミナ専門)工場、「三陸木材」という集成材工場、そして「けせんプレカット」というプレカット工場がありますが、最初の木質エネルギー利用は、平成12年に集成材工場の乾燥工程に「木屑焚きボイラー」を導入したことです。木質廃棄物処理とエネルギーコスト削減策が目的でしたが、現実にコストは1/3削減できました。さらに、蒸気も利用可能です。 将来的にはこの3工場をはじめ、住田町にある加工工場での残材や端材はほとんどすべてペレットに生まれ変わっていくことも可能です。本来なら1億5千万円といわれたペレット製造ラインですが、「既存の建屋にラインを設置できたこと」「すでに乾燥済みの原材料であるため乾燥工程が不要であったこと」「近くに立地したため輸送エネルギーやコストも小さいこと」から、8000万円で実現できました。木質バイオマスエネルギーに取り組むきっかけとなった山に残っている残材は、ペレットやチップとして利用できるよう、現在研究を続けています。 Q:たしかに「けせんプレカット事業協同組合」の工場を拝見しましたが、木工工場とは思えないほど空気がきれいで驚きました。木屑までほとんどを利用されているからなのでしょう。ところで、現在のペレット生産はどの程度なのでしょうか。 泉田:現在一日に4トンの生産ができます。これは設備のキャパシティの約半分ですが、原材料の量を含め、当初の目標通りになっています。今後、いろいろなところから原材料(木質廃棄物はダイオキシンの問題から燃やすことができなくなっている)が入るようになるでしょうから、生産自体は増やすことができると思っています。 高橋:ペレットストーブは岩手県内で150台といわれていますが、われわれのペレットが流通する岩手南部には、そのうち約50台のペレットストーブがあります。このほかに、ペレットボイラーなどの需要もあるのですが、まだまだペレットストーブを普及させたい。そのために、町としても県や国への働きかけを行っています。ストーブ自体がまだまだ高価(40万円程度する)なので、個人宅へのリース形式での導入や補助の可能性など、いろいろな面から可能性を探っています。価格面でも輸入品のペレットに比べて相当安く押さえられているので、実際には使い方にもよりますが、灯油を利用した場合とのランニングでの経済的負担はほとんど違いがありません。また、環境面やコスト面からも輸送は重要な課題ですが、「けせんプレカット」は岩手県南を担当し、昔からペレット製造を行ってきた「葛巻林業」が県北を受け持つという形になれば、無駄なく流通させられるのではないでしょうか。
それぞれの地域でペレット事業が立ち上がれば、最終的に地球温暖化対策となる Q:ペレットストーブやボイラーという用途が主なようですが、それ以外に関しては何か計画はあるのでしょうか。 高橋:ちなみに、木質廃棄物は処理に出せば2万円/トンの費用がかかるわけで、それを宝に変えるという発想から計画を立ててきました。それにはまず身近なところからできるように、ということでペレットストーブやボイラーを考えました。住田町では地域林業システムによって住宅建材を販売しているので、このルートを使って工務店ともペレットストーブ導入促進策の話を進めています。 一方で、岩手県が住田町をモデルに、木質バイオマスエネルギー利用に関して調査に入っています。この調査では、あるエリアでコジェネレーションシステムを構築し電気や熱を自給する、ということが検討されると思います。 Q:岩手型のペレットストーブというお話を聞いたのですが、ペレットストーブというのは灯油ストーブと同じように使えばよいのでしょうか。日常のコストも気になりますが。 高橋:まったく同じというわけではないですが、ちょっとだけ工夫していただけば、実利用での暖かさに違いはありません。ペレットストーブは本体の蓄熱効果が高いので細かく比較すると「暖まりにくく冷めにくい」ところがあります。燃料費に関しては個人で導入されたお宅があるので、そちらの例をうかがったところ、大体年間に900kg〜1000kgのペレットを使うそうです。灯油を利用していた当時の燃料費はちょうどその間とのことですから、こちらのお宅の例からは事実上コスト差はないと思われます。世田米の保育園に導入したペレット利用の床暖房システムの結果を見ても、けっして灯油より高いとは言えないようです。 スウェーデンなど海外の事例も含めてペレットストーブの上手な使い方を検討したのですが、「保温性の高い構造で作られた家屋」「長時間継続して利用する環境」などペレットストーブが向いているケースはあるようです。いずれにしろ、特性に合わせて設置場所や使い方を工夫すれば、他の暖房機なみに暖かくしながら地球温暖化防止に貢献できるすばらしいストーブだと思っています。 Q:これから木質バイオマスエネルギー、あるいは木質ペレットを検討される自治体の方に、なにかヒントがありましたら、最後に教えていただきたいと思います。 高橋:住田町以外にも多くの自治体で取り組まれていると聞いていますが、住田町ではこれまでに行ってきた様々な事業や多くの人々との連携によって、ようやく木質ペレット事業を成立させています。相当のコスト削減をしながらやっていかないと「ボランティア」になってしまうでしょう。ペレットストーブと言っても、一台あたりの年間のペレット消費量は約1トンです。一方で最適生産量は1000トンの単位になると思います。現状では岩手県にペレットストーブは150台、ストーブ以外の用途をよく考えないといけないのではないでしょうか。 ただし、この事業は輸送コストなどを考えると地域完結型産業であり、それぞれの地域で立ち上がることが最終的に地球温暖化対策となるものですから、多くの場所で成功してくださることを期待しています。