新エネの風景

淑徳大学教授・北野大先生に聞く

以下に紹介するインタビュー記事は2005年11月上旬、環境化学を専門とする淑徳大学教授の北野大先生からお聞きしたものです。新エネルギー財団が全国各地で開催する講演会に、1998年以来何度も講師としてお話をされている北野先生だけに、興味深いお話を伺うことができました。

●講演会で知らされた専門家の盲点

Q:新エネルギーに関しては1998年以来すでに50回も講演をされていますが、講演の際に心掛けていること、また印象に残っているエピソードなどがあれば教えてください。

北野:僕は、講演では必ず人類のエネルギー利用の歴史についてのお話をします。やはり、なぜ温暖化問題がおこっているのか、今のエネルギー状況を理解していただくには、その歴史を話すのが一番分かりやすいと思うからです。掻い摘んで言ってしまうと、かつて我々は地上の太陽からエネルギーを得ていたのに、産業革命を機に地下の太陽、つまり化石燃料を得て、これにシフトした。その負の部分として、地域的には大気汚染、地球規模では温暖化の問題を起こしたのだと。だから、これからは新しい技術を用いながらもう一度回帰していきましょうというお話ですね。

ただ正直に言うと、女性の方が反応がいいので話やすい(笑)。これは自分のことも含めてなのですが、やはり中高年の男性は「あいつにどのくらいの話ができるのか」と斜に構えてしまうことが多いですから。でも、どなたに聞いていただくにしろ、分かりやすく、面白くお話しすることをいつも心がけています。その中で何か一つでも新エネに関するヒントを持って帰っていただけたら十分なんです。

それから、今でもよく覚えているのですが、温暖化の話をした後に「温暖化が進めば二酸化炭素が増えて、いずれ地球上に酸素がなくなってみんな死ぬのですか?」という質問をいただいたことがありました。この質問には驚きましたが、同時にとても勉強になりました。酸素は「パーセント」、二酸化炭素は「ppm」という濃度単位を使うのですが、1ppmは0.0001パーセント、つまり1万倍違うんです。ですから、二酸化炭素が増えることと酸素濃度が減ることは別のことと考えていいのです。僕はついつい、これを前提としてお話してしまったわけですが、一般の方からすれば、そういった単位なんてはすべて同じように思える。本当に専門家の盲点というか、ハッとさせられました。

●高視聴率のエコ・バラエティ番組

Q:いろいろなテレビにご出演されている北野先生ですが、なかでもぜひお話を伺いたいのが青森朝日放送で放送されている「北野大のえーコロジー」。残念ながら放送地域が限られているので拝見したことはありませんが、とても評判がいいそうですね。

北野:ええ、そうなんです。エコ番組としては異例らしいのですが、土曜日の朝10時という時間帯に関わらず視聴率が2ケタあるそうです。

こういった番組では新しい技術に焦点を当てがちなのですが、この番組では一般の人、市民に焦点を当てています。それに面白い事例が本当にいっぱいあるんですよ。例えば、風力発電を農作物を食べてしまうモグラの撃退に利用したりだとか、学校給食の食べ残しや調理くずを活用して「はまぽーく」という横浜のおいしい豚肉ブランドを作ったりだとか、卵の殻から作ったコッコチョークというのもありましたね。それから前回の放送では、廃油の再利用を取り上げました。廃油というと飲食業者などが持ち込む廃油を精製し直して販売する会社は結構あるのですが、僕達の番組では、家庭から出る廃油だけを対象にして再活用している会社を紹介したんです。そこではVDFという次世代リサイクルエネルギーを開発し車の燃料として販売しているのですが、なかなかすごいですよね。

僕がこの番組の中で心がけていることは、とにかく楽しくということ。テーマがエコロジーと堅いので、大事な部分はきっちり押さえて、それ以外は楽しく面白く。だから視聴者はバラエティ番組を見ている感覚で見ているもかもしれませんね。僕なんかも勝手にエコ・バラエティ番組って呼んでいるんですけど(笑)。自分で言うのも何ですが、本当にいい番組なので、青森県だけでなく全国的に放送できるようになるといいと思っています。

●実感したい新エネルギー

Q:北野先生の番組を含め、新エネルギーをもっと身近に感じること、新エネルギーに触れる機会を増やしていくことが大事だと思います。

北野:そうですね。例えば新エネルギーを使ったショールームなどがあって、展示パネルなどに各機能の説明が書いてあることがよくあります。でも本当は、そこで実際に太陽光を使って灯りを点けたり、お湯を沸かしてお茶を飲んだりできたらもっといい。だってパネルに書かれた説明を読んだだけでは生活感がないから、そういったエコハウスに住んだらどういう生活ができるのかまったく実感できないでしょう? だから、毎日家の中でやっているようなことを体験してもらって、このすべてが太陽光で作った電気だけでできているんです、と言った方がイメージしやすいと思います。

それから、今、子供向けに太陽光発電キットや風力発電キットなど様々な実験用キットが発売されていますが、これも極力プロトタイプの方がいいですね。完成されていないものを使った方が子供の興味心が刺激できますし、原理を学ぶことができますから。

●記憶に残るあの風景

Q:これまで様々な新エネルギーの導入事例をご覧になっていると思いますが、特に記憶に残っているものはありますか?

北野:いろいろありますが、海外ではデンマークのウィンドパークです。風力発電機が100基以上あったかと思いますが、みんな3枚羽で、色も統一されているので、とにかく眺めが美しいんですね。風力発電のあの外観が嫌だという人もいますが、僕はカッコイイと思いますし、形や色を統一しておくことは街の景観を考える上でも大切だと改めて痛感しました。

それから国内では太田市の「Pal Town 城西の杜」でしょうか。ここは太田市が初めて手掛けた住宅団地ですが、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「集中連系型太陽光発電システム」の実証研究地に選定されたのです。僕が見に行った時にはすでに300戸ぐらいの家が建っていたのですが、その7割の屋根に太陽光パネルがついていました。あれだけ数があると壮観ですよ。実際、太陽光パネルや蓄電池の設置などには1戸あたり500万円ぐらい費用がかかるそうですが、それを無料で設置してもらえて、メンテナンスも研究期間の5年間はNEDOが無償でやってくれる。聞いたところでは、家庭の電力の7割から8割は買わなくて済んでいるそうですから、これは大きいですよね。ただ惜しむらくは電柱が地上に建っていること。地下に入れてくれれば景観もいいのに、そこだけは残念だったかな。

●新エネを推進するためのポイント

Q:新エネルギーの導入を推進していく上でアドバイスがあればお願いします。

北野:まず、技術というハードと、モラルというソフト、その両方が揃っていなければダメだということです。例えば、新エネルギーを取り入れたからといって電気を使い放題にしていいってことではないですよね。このようにモラルが欠けても、反対に技術が欠けてもうまくいかない。自転車の両輪のように、双方が揃って動いていることが不可欠なんです。

2つ目としては、ハウジングメーカーはもっと省エネや新エネの設備を標準仕様にするべきだということ。これは僕の経験からくる要望です。実は4年前に我が家を建て直すことになり、僕も太陽光パネルをつけて、雨水も貯めるようにして……といろいろ計画していたんですが、ハウジングメーカーからいろいろなダメ出しを受けて、申し訳ないけれど断念してしまった経緯があります。今は太陽光パネルの設置などを標準装備しているメーカーもあるけれど、それでもごくわずか。ぜひそういったメーカーがどんどん増えてほしいと思います。モデルハウスなどを見に行くと各メーカーとも大きさばかりを競っているけれど、そういう見栄えよりも、環境を配慮した設備を表示して競ってほしいですよね。最近は樹脂サッシなんかが評判ですが、そうした断熱性に優れた省エネ素材をいち早く標準で取り入れてくれるメーカーが増えてほしいです。

3つ目は、NPOへの期待ですね。例えば建設費が高額となる風力発電などは個人で設置が難しいため、NPOなどで出資を募ってやっている例が少なくありません。このように、これからの社会は、政府とNPOなどが協力し合う共働社会にしなければいけません。最近は行政側のNPOに対する意識もかなり変わりました。またNPOの側も、いろいろなNPOが出てきてかなり質が向上しているように思います。なかには環境の専門家を置いて、政府と協働でやっていこうという意識を持つ人が少なくありません。それに60歳で会社を定年退職した人の中には様々な能力、経験を持っている人がいます。そういった方々がNPOに参加してどんどん活躍していただけたらいいと思います。

Q:風力発電のお話が出ましたが、太陽光と比べると、国内の風力発電はそれほど普及されていません。そのことに関して北野先生のご意見を聞かせていただけますか?

北野:そうですねぇ、風量発電は設置面積に対してものすごく生産性が高いから、駐車場や農地として貸しているよりもよほどいいんですよ。もちろん農業も大事ですが、収益の面から言えばはるかに風力発電の方が上だと思います。まぁ先程も言ったように建設費がかかるので何年で回収できるかとか、いろいろありますけれど……。以前は電気の質が悪いなどといった批判もありましたが、蓄電池を併設したり、電気分解して水素に変換して燃料電池にもっていくなどすればいいわけです。

それから太陽光ももっと普及しなくてはいけません。そのために僕が一番いいと思っているのが「屋根貸し」です。公共施設や体育館、サッカー場などの屋根、それからマンションなどの集合住宅も借りて太陽光パネルを設置する。マンションの大家さんなどにはそこで得た電力の売電代金の何割かを屋根代として還元すると。

また、太陽光パネルにしろ、風力発電にしろ、環境にいいから、エコロジーだからということを錦の御旗にしたのではダメなんです。環境にいいのだから設置料が高くても我慢しろとか、不便も我慢しろとか、見た目がカッコ悪くても仕方ないじゃないか、というのでは長続きしません。長続きさせるためには、やはり経済的に有利だったり、便利だったり、景観を損なわないものにしないと。環境を錦の御旗にしてすべて我慢しろという考えを捨てなければ、新エネも省エネも進まないということですね。

北野大先生プロフィール
淑徳大学教授/工学博士
昭和17年5月29日、東京都足立区島根に4人兄弟の次男として生まれる。昭和47年3月、東京都立大学大学院工学研究科工業化学専攻博士課程修了。分析化学で博士号を取得。(学位論文:光分解ーガスクロマトグラフィの研究)専門は環境化学。経済産業省化学物質審議会委員、環境省中央環境審議会委員。タレント・ビートたけし氏の実兄。著書は「環境監査実務マニュアル」といった専門的なものから、「ドクター北野の地球何でも好奇心」「僕が化学者になった理由」などの一般の人を対象にしたものまで多数。